認定スクラムマスター(CSM) トレーニングを受講した所感など

新型コロナウィルスの影響で3月中の仕事がほぼなくなってしまいました。フリーランスになって、単一のスキルに頼った働き方ではこのようなリスクに対応するのは非常に困難であると強く認識しています。
ただ、悲観していてもしょうがないので新たな知識を得ようと、2020/3/23 – 25 の3日間で、Odd-e 社主催の認定スクラムマスター(CSM) トレーニング(トレーナーは、江端さん) を受講してきました。

認定スクラムマスタートレーニングは、Scrum Alliance 認定スクラムトレーナーにより提供される「スクラムをプロダクト開発の仮説検証のフレームワークとして活用する」ための研修・トレーニングです。

参考: パブリック研修・トレーニング(Scrum Alliance®公認研修・トレーニング)|オッドイー

受講者はトレーニング中に認定スクラムトレーナーにより能力を評価されると、Scrum Alliance に登録され、認定スクラムマスターの試験を受ける権利を得ることができます。その後、試験に合格すると認定スクラムマスターを得ることができます。試験は単なる知識問題ですので、トレーニングを乗り切った人にとっては、非常に簡単です。

重要なのは、トレーニング期間中にトレーナーにスクラムマスターとしてやっていけると能力がある認めてもらうことです。何も発言しないとトレーナーも良い・悪い判断できませんので、おそらく認めてもらえないと思います。トレーニング中は臆さずに積極的に発言するべきです。


なお、コミュニケーション能力などはおそらく判断の基準として見ていないと思います。初対面の人と話すのが苦手とか一切気にする必要はありません。トレーニング中にもはっきり言われますが、「論理がすべて」です。発言した後に、それはもう論理の穴をつくフィードバックが怒涛のようにされますが、それに凹む必要もありません。なぜならフィードバックを得たということはアイディアをさらに発展させることができるからです。トレーニングにはこんなマインドセットで臨むと良いのではと思いますし、スクラムマスターに必須のマインドセットであると理解しています。
偉そうなことを書きましたが、実際私も、トレーニング中は場の空気に臆したり、フィードバックに凹んだりしました。でもそれはスクラムマスターにとっては”本質的には無意味”であると今は理解しています。ただ、これはスクラムマスターの持つべきマインドセットです。人間同士のことなので、実際のスクラムの中では人の”心理”も重要だと理解しています。

さて、トレーニングを受講してみて、自信を持って一番理解できたことは何かというと、スクラムマスターにとってスクラムの「習得は困難」であるということです。
こんなことを言うとトレーニングを受けた意味があるのか?と思われそうですが、そんなことはありません。なぜなら、「取得は困難」であるということを学び、深く理解することができたと言えるからです。

この「習得は困難」というのは、「スクラムガイド」に記載されています。

スクラムとは、以下のようなものである。
– 軽量
– 理解が容易
– 習得は困難

https://www.scrumguides.org/docs/scrumguide/v2017/2017-Scrum-Guide-Japanese.pdf

スクラムは、たかだか15ページぐらいにまとまるぐらい非常に軽量なフレームワークであり、スクラムのルールを理解することは難しいことではありません。
トレーニングを受ける前は、スクラムマスターはこのルールを理解し、チームに守らせる役割としか理解できていませんでした。
しかし、トレーニングを受けた後は、スクラムマスターの役割はただ単にルールを理解して、ルールをチームに「守らせる」役割ではないということを理解できます。
スクラムマスターには、スクラムへの真の理解が必要で、それは、組織論や心理学などの学問に行き着きます。そもそもスクラムは組織論や心理学などの学問で証明された方法論であるということを理解できます。

では、スクラムマスターはどのようにスクラムを習得するのかというと、これは実践でしか習得できないと理解できました。そもそも「習得」とは、単に知識を得ることではありません。知識は適切な情報源からただ単に得ることができるため、困難な作業ではないということです。スクラムマスターを担うには、それよりも遥かに困難なことがあるということがトレーニングを通じて理解できます。
多くの受講者はトレーニングの中で「スクラムマスターにとって単に知識を得ることなんてどれほど簡単なことであるのか」と正に実感する強烈な実体験を得ることになると思います。詳細は述べませんが実際にトレーニングを受講して体験していただきたいと思います。
裏を返すと、このトレーニングは決して居心地の良いトレーニングではありません。トレーニング期間中に考えて考えて考え抜いて発言してはいとも簡単に論理の穴を点かれるという感じです。ただ、決して理不尽な要求をされるわけではありません。重要なのは、「論理的かつ尺度と基準に基づく」アイディアを出せるかどうかであり、それが評価のすべてです。ただトレーニング期間中に「論理的かつ尺度と基準に基づく」アイディアにたどり着いた受講者は私も含めて一人もいなかったように思います。

ここまで述べると自分の足りないことを学んだだけなのかと疑問に思うかもしれませんが、そういうわけではないです。なかなか言葉で表すのは難しいのですが、個人的には以下のような言い方になりました。

「集団の活動において、スクラムマスターが担う本質的な役割への深い理解と、集団の活動を効率化するために、スクラムマスターはどのような行動原理を持つべきかを実体験を通じて、100% とまでは言えないが、Web や書籍では決して理解できないレベルで深く理解することができる。」

このことを理解できたので、習得が困難である、自分の能力が足りていないと真に理解できるわけです。(ただ感じ方は受講者ごとに千差万別であると思います。)

トレーナーの江端さんが「書籍の依頼はすべて断っている」とおっしゃっていましたが、トレーニングを通じて直接でしか伝えることができない本質的なことがあり、スクラムマスターという役割は、このような本質を学ばないと担うことができないのだという認識になりました。

さらに、スクラムマスターの本質的な役割を理解することで、ビジネスや日常の中の様々なシーンで、自分の行動が良い意味で影響を受け、集団における活動をより良くするための様々なヒントを得ることができるようになったと実感しています。
単にスクラムというフレームワークの中だけの狭い範囲ではなく、世の中の集団活動をより良くするにはどうするかといった、より広い範囲での行動原理を考えられるようになったと感じています。そして、世の中のあらゆる集団活動に応用でき、より良くしていくことができるというワクワク感を得られました。(このワクワク感を得たのはトレーニングが終わって数日間あれこれと考えた後ですが・・・)

例えば、以下のような日経の記事を読むことでも、以前よりもより深く記事を理解でき、記事の内容一つ一つがスクラムマスターの行動原理を学ぶ良いヒントになると実感しています。これは明らかにトレーニングを受ける前と後では理解の深度が異なっていると思います。

日経新聞: コロナ後の世界に警告 「サピエンス全史」のハラリ氏

記事の内容をいくつか抜粋して、スクラムマスターの行動原理に対してどのようなヒントになったのかを具体的に挙げてみます。

例えばスクラムマスターはチームやプロダクトオーナー、ステークホルダーから信頼されないといけません。ではスクラムマスターはどのように信頼を得るのでしょうか?以下の内容が参考になります。

それまでは、医師や看護師でさえ1つの手術が終わると、手を洗わないまま次の手術に取り掛かっていた。今日、数十億人が毎日、手を洗っている。監視されていて、手を洗わないと処罰されるからではない。その有効性を理解しているからだ。

私がせっけんで手を洗うのは、ウイルスやバクテリアについて聞いたことがあり、これらの小さな有機物が病気を引き起こすことを理解し、そしてせっけんがそれらを除去してくれると知っているからだ。

ただし、そのようなレベルの指示順守と協力を達成するには信頼が必要だ。人々の科学への信頼、行政への信頼、そしてメディアへの信頼が必要だ。この数年、無責任な政治家たちが意図的に科学や様々な行政、メディアへの信頼を損ねてきた。今、まさにこの無責任な政治家たちが、市民が正しい行動を取れるとは思えないから国を守るには必要だとして独裁主義的な道へ堂々と進もうとするかもしれない。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57374690Y0A320C2000000/

スクラムは組織論が重要である点を理解するのも以下のような記事の内容からヒントを得ることができます。中央集権的組織の目的と、チーム中心的組織の目的をきちんと理解している必要があります。

監視体制を築く代わりに、科学や行政、メディアに対する人々の信頼を再構築するのは今からでも遅くはない。その際、様々な新しい技術も積極的に活用すべきだ。ただし、市民がもっと自分で判断を下し、より力を発揮できるようにする目的で新技術を利用すべきだ。

筆者は自分の体温や血圧を測定することには大賛成だ。だが、そのデータが絶対的な権力を持つ政府を生み出すために利用されてはならない。むしろ、私のような個人が自分の健康状態に対する理解を深め、自分で適切に判断を下せるよう活用されるべきだし、同時に政府に説明責任を果たしてもらえるように市民が活用できるようにすべきだ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57374690Y0A320C2000000/

例えば、ステークホルダーは、スクラムチームとは異なる組織です。以下の抜粋内容は、そのような異なる組織間で、共存共栄するための考え方のヒントになります。スクラムマスターは、組織を超えて共存共栄するための考え方が重要になります。特に目的の違う組織形態の中で、スクラムチームの活動を最大化するには、チームの外の組織への働きかけが重要となるのです。

各国が自国で各種の医療機器などを生産して抱え込むのではなく、世界全体で協力しあって取り組めば生産を加速し、命を救う機器をもっと公平に分配できる。戦争中はどこの政府も重要産業を国営化するように、このウイルスに対する戦いで死活的に重要な生産ラインは「全人類のものとすること」が必要だ。

感染者の少ない先進国は、自分たちも医療機器が必要になり、何らかの支援が必要になれば他国が助けてくれると信じて重要な医療機器を感染者が多い途上国に進んで送るべきだ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57374690Y0A320C2000000/

このように、トレーニングを受講することで、行動原理そのものがだいぶ変わったように思います。
スクラムの枠の中だけではなく、普段からこの行動原理に基づいて行動することがすなわち真のスクラムマスターへの道になるのではないでしょうか。

最後にまとめると、認定スクラムマスタートレーニングを受講することで:

  • あなたの行動原理が変わります!
  • 世の中の集団活動をより良くできるのではないかというワクワク感を得ることができます!

なお、これらは私個人の所感です。参加者はそれぞれまた別の所感を持っていることと思います。
また、ここでいう行動原理って具体的になに?という部分が気になると思いますが、これはぜひトレーニングで実際に体験してただきたいと思います。

以上です。